頬袋に木の実を

ヤクザル 屋久島 頬袋

子猿が続々と生まれて森が陽気になってきている。猿も人も、赤ちゃんは忙しすぎる大人の時間を忘れさせてくれるほど、かわいい。

今日も子猿に焦点を当てて今年生まれた子を探していると、いたいた。母ザルに大切にかかえられて木の幹を移動していた。そして、お気に入りの場所が見つかったのか母ザルは腰を下ろし、手を口に当ててモゴモゴしはじめた。

母と子を一緒に撮るときは大概2人の表情が素敵になる瞬間はほとんどなく、じっとタイミングを待つことになる。双眼鏡を使って観察するようにファインダーで2人の行動を観察してると、母ザルがポイッと何かを投げた。そして、またポイッ。

まわりに葉や実がない環境で、明らかに何かを食べ、殻のようなものを捨てている。そう確信した瞬間。これはもしや! 

昨日、友人が飲みながら見せてくれたナショナルジオグラフィックの本。その見開き1ページの写真が、二日酔いで反応が悪くなってるシナプスを、正常以上の速さに一気に加速させ、脳裏に映像を飛ばしてきた。その写真は顎下にパンパンに木の実を貯め込んだ猿のポートレート。その写真には文章が添えられていて猿には「頬袋」というものがあり、木の実をためることができるという。それは年々大きくなっていくそうだ。

「いやー、これはいつかみて見たいね!」

その思いが翌日実現するとは楽観的な僕もさすがに予想できなかった。

ドキドキしながら母の顎下を注目すると、、、

 

あきらかに木の実が詰まっている輪郭をしていて、肥大化していた。

 

それがわかると、表情なんてどうでもよくなってシャーターを連打。笑 もう、嬉しくて心臓がバクバクッ。なんて現実はドラマチックなんだろう。

思い返すと実は、喉元に腫瘍みたいなのがあるなあと印象を受ける猿には何度か会っていて、それは写真のものよりもっと小型で垂れ下がっていたので、木の実を貯めているとは予想だにしなかった。また、こんなにたくさんの木の実の殻が一箇所に捨ててあるのはどうしてだろう。どうやって猿はここまで運んできたのだろう。といつも思っていた。

母親はきっと子猿の世話で、食べる時間が他の猿より少ないのかも知れない。猿たちは群れで食べ物を探しながら常に移動している。この瞬間の時も、僕はサルの移動を尾行していて、ようやく止まってくれた時だった。は〜、やっと落ち着いてくれたかと思ったのは僕だけではなかったのだ。僕は、やっと写真が撮れるとカメラをとりだし、母ザルはやっと落ち着いて食べられると頬袋から木の実をとりだした。その「は〜、やっと」という思いが地球のある一点で重なったのだ。その偶発性に気づくと、何気ない日々の日常がなんて愛おしい時間へと変わってしまうのだろう。

そんなメルヘンな気持ちになってフワフワ幸せ気分になっていると、妻の顔が頭によぎる。

どの世界でも母はいつも、偉大だ。

 

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