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ユウレイクラゲとハナビラウオ

6月に入ると黒潮がぐっと屋久島に接近してくる。黒潮は栄養分の少ないクリアな海流。近づいてきたり離れていったりを繰り返しながら、やがてその洪水に屋久島が包まれると一気に透明度があがって、極上のグランブルーの世界となる。ブランブルーとはフランスで「雄大な青」という意。これから屋久島の海は雄大な夏へと向かっていく。

そんな夏前のこの時期は、黒潮の端が屋久島に当たることがあるからとても面白い。透明度が抜群の黒潮だが、海流の周辺部はさまざまなプランクトンが浮遊していて、普段出会わない生きもののドラマが見れるチャンス。

 

この日は、ユウレイクラゲとハナビラウオが水面近くを優雅に漂っていた。

 

ユウレイクラゲは大型のクラゲで大きいものは1mを超えるとか。写真の個体は傘径が20〜30cmほど。触手に毒の刺胞を備えている。人が触手にふれると激しい痛みが走り、みみず腫れになるほどだから、けっこうな毒なのだろう。その毒を利用してさまざまな生き物を捕獲していると思われる。他のクラゲも捕食するらしい。

しかし、ハナビラウオはもともとその毒に対する耐性があったのか、それとも進化の過程で耐性を獲得したのかは謎だが、ユウレイクラゲの毒が効かない。そして、その毒をうまく利用して外敵から身を守りながら、幼少時代はクラゲと友に大海を旅している。

クラゲは漢字で水母と表現する。生まれたときにはすでに実母がいないハナビラウオにとって、クラゲはまさに母のような存在なのかもしれない。

カメラをむけると母を盾にしてすぐ身を隠してしまう。カメラをかまえたままじっと待っていると

 

おそるおそ〜る巨人をチラリ。

「あー、まだいるよ〜。この髭面。」

「はやく、どっかいってくれないかなあ。」

そんな、声が聞こえてくるようだった。

 

ハナビラウオは成魚になると海の深みに潜降して、深海(100〜200m)で暮らすようになるという。

 

彼はいつの日か揺り籠から飛び出し、外敵のいる世界に旅立つ。いったいどんな決意の仕方をするのだろう。

 

小さな小さな裸一貫の小人の勇気ある未来の一歩を想像すると、ウエットスーツを身にまといレギュレターを咥えた陸上生物の巨人は何とも活きいきと高揚してしまうのだった。

2012年6月13日撮影

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